— ここ数年、正月になると社長のお宅で大学ラグビー選手権の準決勝をTV観戦するというのが慣例化(?)しちゃってます。二人してTVの前で「う~」とか「あ~」「何でパスしないっ!!」なんて騒いでいる。奥様にとっては迷惑千万でしょうが・・・。最近のラグビーはどうですか?
「そうですね。学生のレベルがずっと上がっているというのは、はっきりと分かります。昔に比べると全体的にフィジカルが圧倒的に違う。今季優勝した帝京大学の選手なんて見ると、もうトップリーグで充分通用するものを持っているように思います。ただ・・・。
— 六大学が低迷している?
「(笑)・・・そうです。やっぱり、決勝戦ではどちらかのチームにストライプのジャージが観たい。臙脂でも、ブルーでも、ゴールドでもいいですから、頑張って欲しいです。」
— そのジャージがオレンジ&ブルーならもっといい?(笑)
「それはもう!! そうなれば、TVの前から離れません。(笑) 国立競技場まで行くかも知れません。どうして、六大学が出てこなくなったのですか?国立競技場を満員に出来るような学生スポーツは、ラグビーしか考えられないと思いますが・・・。」
— それは、学生の選択肢が増えたからだと思います。今年は筑波大学が国立大学として初めて決勝の舞台に進出しました。選手の拡散が進んでいる証拠だと思います。僕も出来れば決勝戦では、どちからかのチームにストライプのジャージを観たいです。でも、色々な大学が出てくることは、ラグビー界にとって歓迎すべきことなんです。今までは、いい選手はほとんど六大学に進学していました。だから、早稲田、明治、慶応、法政が強かったんです。
「なるほど。それは、2019年のラグビーワールドカップ日本開催を睨んでいるということでしょうか?」
— それもあると思います。でも、なんとか六大学を倒そう、というメンタリティーの方が強いかも知れません。やっぱり、エリートに勝とうとする雑草魂みたいなものが、まだラグビーの世界には残っています。でも、ラグビー経験者ではない社長がこんなにラグビーに詳しくて、興味を持っているのは珍しいことです。ほとんどの人は「ルールが分からない」と言って敬遠するのに・・・。
「今でも細かいルールは分かりません・・・。ただ、私はニュージーランドに友人がいて、何度も行きました。それは、会社としてガーデニングを始める勉強のために行っていたのですが、向こうのラグビー熱に触れたからかも知れません。ラグビーが生活の一部になっているのを体験しましたから。」
— そう言えば、オールブラックスのネクタイをしているときありますもんね。あれ、格好いいです。分かる人には、通じるお洒落。
「かなり前にニュージーランドで購入した物です。黒地にオールブラックスのロゴが入っているだけのシンプルなデザインがいいなと。今でも着用しますよ。」
— 社長は学生時代、やり投げをやられていました。それを聞くと、ストイックな性格がよく分かります。
「そうですか? ストイックですかね。」
— 個人競技で突き詰められる人はストイックじゃないと無理です(笑)。チームスポーツをやっていた僕には、絶対に無理(笑)。それも、やり投げという競技でどうやったら強くなれるのか・・・、考えられません。
「ヨーロッパではやり投げは超メジャースポーツなんですよ。他にも、陸上競技であれば10種競技、球技であればハンドボールとか、日本とはちょっと観点が違います。日本では派手で、分かりやすいスポーツが好まれます。欧米では観客が選手の質とかプレーの意図をはっきりと見極めようとする。」
— そうですね。あと、みんなで揃って応援することが出来るようなものでしょうか。鳴り物を使って。野球、サッカー・・・、ちょっと異様な風景です。社長が嫌いな・・・。
「コメントは控えます・・・(笑)。」
— 奥様も新体操やられていたとお聞きしました。ご夫婦揃ってストイック・・・。
「いや、いや。まぁ、多少ありますかね・・・。」
— あります!! 断言出来ます。社長は以前から仕事をする上で大切な資質として、「運動神経と感性」とおっしゃっています。それは、どのような部分に現れますか?
「そうですね。相反するような資質に思われるかも知れませんが、これは大切な能力だと思っています。運動神経はリアクションに現れます。例えば、Aという仕事があるとします。上司はAという目的を達成するために、BやC、Dを組み合わせた指示をそれぞれ部下に出す。優先順位は「B>C>D」だとすると、当然、Bの成果が早く欲しいわけです。そして、リアクションの早い人は、それを咄嗟に理解する。そこには、運動神経が起因しているように思います。」
— Bを成し遂げるためには、いち早くCが必要だと?
「はい。それが仕事に対するリアクションです。ですから、自分に出された指令に対して、素早く優先順位をつけることが出来る資質が重要なのです。自分に出されたCという指令だけを捉えるのではなく、Cが終わらなければ、Bの仕事を達成することが出来ない、と考える。Dの指令を受けた人も同じです。」
— 本質論ですね。感性についてはいかがですか?
「うーん。それは、言葉にするのは難しいですね・・・。私が感性と定義しているのは、「上手か」「下手か」といった二極論ではないのです。そうです ね・・・、例えば、設計やデザインを目にしたときに、上手くまとめるデザイナーって沢山いますが、何かそこから感じるものがあるかどうかは別問題だと考えています。」
— それは、どういった感情として受け止めればいいのですか?
「単純な感覚でいいと思っています。「一生懸命やっているな」とか「何か新しいものを生みそうだな」とか、視覚や聴覚、触角以外で感じ取れるものがあるかどうかです。それは、「上手い」「下手」とは別次元にある何かとして捉えています。」
— 持っているもの、素質も関係ありますか?
「多いにあると思います。と言うよりも、これは天性のものかも知れません。つまり、可能性なんですね。その人が持っている。トランペットでもドラムでも上手く演る人は沢山います。でも、「それはジャズか?」というのとは別問題。その音を聴いた人から「あ、ジャズだね」「お、表現してるね」という評価を得なければ本物のジャズにはならない。」
— 本人が「ジャズやってます」では足りない?(笑)
「そうです。特に、ジャズという分野はそうでうね。」
— なるほど。最近、スポーツの世界でもリアクションという言葉が多く出ます。ラグビーやサッカーなどのボールゲームであれば、ルーズボールに仕掛ける早さを示します。リアクションが早い選手は、やっぱり感性、感覚が優れているという評価になります。
「仕事も一緒ですよね。ですから、私は「運動神経と感性」と言っているわけです。」
— 最近、暗い話題ばかり目立つスポーツ界。体罰問題については、どうお考えですか?
「程度問題だと思います。ただ、体罰と言うくらいですから、「罰」でなければいけない。要するに、罪と罰。」
— 罪があってこその罰である、と。
「はい。罪を認識していない人に、罰だけを与えるのはいけません。」
— 批判を恐れずに敢えて言うなら、僕は一切合切禁止というのは引っ掛かりを覚えます。確かに、無差別な体罰はいけない。けれど、この問題が持ち上がったとき、僕は去年のNPBの日本シリーズで、ジャイアンツの阿部捕手が澤村投手の頭を小突いた映像を思い出しました。あれは、気合いと緊張で空周りする澤村投手を冷静にさせるために、マウンドへ行った阿部捕手がポカッと頭を叩いたんです。全国放送ですよ。結果、澤村投手は8回まで投げ切って、チームは勝ちました。ここ最近、多くの識者の方々が「何があっても手を上げるのは駄目」という論調が増えていますが、あのシーンを観て欲しいです。あれは体罰ではないと思うんです。
「程度を知っていたのでしょう。それと、普段からのコミュニケーション。叩く場面と叩く人。つまり、「この人から叩かれるのであれば、自分は相当悪いことをしたんだな」と思えるかどうかです。ただ、「俺の時代はなぁ…」と、いかにも昔は良かったという風情を発するオヤジ論はいけませんね。あれは格好悪い。」
— (笑)おっしゃる通りです。締めの言葉を頂いたところで、今回はここまでにしましょう。